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山形地方裁判所米沢支部 昭和40年(タ)6号 判決 1965年11月25日

原告 斉藤伊勢雄

被告 斉藤新一 外一名

主文

本件を東京地方裁判所に移送する。

理由

本件は養親子離縁の訴であつて、養父新一の住所は山形県米沢市花岡町八九番地、養母ハルの住所は新潟県佐渡郡金井町千種墫恵美方であるとして当裁判所に提訴された。

ところで離縁の訴の管轄は養親の普通裁判籍所在地の地方裁判所の専属管轄とされているので、養父母の普通裁判籍が異る場合にはそれぞれ各別にその普通裁判籍所在地の裁判所に訴を提起すべきか、或は夫婦共同離縁の必要があるので直近上級裁判所に管轄指定の申立をしてその指定を受けるべきか、更には夫婦共同離縁の必要があるとしても養父母両名を被告としてそのいずれの普通裁判籍所在地の地方裁判所に提起してよいと解すべきかは困難な問題であるが、当裁判所は最後の見解により本件訴を受理し審理することにした(最決昭三一・一〇・三一民集一〇・一〇・一三四〇参照)。

そこで当裁判所は本件訴状を被告らに送達しようとしたところ、被告ハルには送達されたが、被告新一には居所不明との理由で送達不能となつた。よつて調査したところ被告新一の最後の住所は米沢市花岡町八九でその後は行方不明であることが判明したので、同所を同被告の最後の住所地と認め、公示送達の方法によりその手続をすゝめた。

然るにその後同被告は東京都荒川区東尾久町八ノ七ノ九江川金雄方に居住していることが判明したので、同所に訴状等を送付したところ、その送達がなされた。そこで更に調査したところ、同被告は昭和四〇年八月五日から同所に居住していることが判明した。

このような場合まず第一に当裁判所の管轄の有無が問題となるが、この点については当裁判所は積極に解する(同旨兼子民事訴訟法I二二頁)。何故ならば行方不明の者を被告として訴を提起しようとする原告にあくまでその住所或は居所を探索せよと要求することは不能を強いる結果となるので、法はその最後の住所地をもつて普通裁判籍所在地と認め、原告の利益を図つたものであるが(最後の住所地に普通裁判籍を認める人訴法一条二項が補充規定であるといわれるのはこの理由からであり、その被告が死亡している場合でない限りどこかに居住して住所或は居所がある筈である)、後に住所或は居所が判明したからと言つて管轄違になつては、その制度自体を否認する結果となるからである。このことは訴訟手続の安定性の要請からもいえることである。即ち訴提起当時行方不明であるとして最後の住所地に普通裁判籍を認めて訴訟手続をすゝめた以上後に住所或は居所が判明したとしても、それ以前に管轄あるものとしてなした訴訟手続が覆る結果になつては動的に発展する訴訟手続の安定を著しく害する結果となるからである。

然しこのことは従前の裁判所が管轄違にならないというだけであつて、後に被告の住所又は居所が判明した場合にもあくまで従前の裁判所で審理を続行しなければならないことにはならない。本来管轄は当事者の利便のために定められたものであるから本件のように被告新一の住所が前記のごとく東京都であると判明し、原告も同所に居住している以上、本件訴は東京地方裁判所において審判するのが当事者に最も利益であると思われる。(尚被告ハルは、本件口頭弁論期日に出頭せずその代り、請求原因事実を全て認め請求認容の判決を求める旨の答弁書を提出している実情であるので、殆んどその利益を考える必要はない。又本件は人証の採用はしたけれどもその取調には入つていない段階であるし、事件の性質上原告及び被告新一の取調は必須であるが、両名は東京都に居住している点も考慮しなければならない。)

たゞ本件は専属管轄の場合であるので、これを移送し得るかという問題があるが、起訴後被告がその住所を他に転じた場合転居後の住所地の裁判所にも管轄が生ずるものと解すべきであつて(民訴法二九条は訴提起当時管轄があればその後管轄原因が消滅しても管轄を失わないという趣旨であつてその後新たな管轄が生ずることを禁ずるものではない。)このことは専属管轄の場合でも同様である。このようにみると管轄裁判所が複数生ずる結果となるが、専属管轄が複数生ずることは通常はないとしてもこれを否定するものとは考えられず、現に本件においては被告ハルの普通裁判籍所在地の地方裁判所にも本件訴の専属管轄があるのである。従つてこの点も考慮する必要はない。

以上の次第であるので、民訴法三一条により本件を東京地方裁判所を移送することとして主文のとおり決定する。

(裁判官 近藤和義)

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